電車

改札を通る。電車に乗る。椅子に座る。周りをちらっと見渡す。乗車率は半分ほど。スーツを着ている人もいれば、JKらしきグループ、おばあちゃんもいる。様々な人がいる。

電車にはたいてい一人で乗っているのだが、乗っている間は何とも中途半端な時間だ。あらかじめ予定していた時は、本なりなんなり持ち込んでそれで時間をつぶすが、何も持ち込んでいないときには誰にも見られている訳ではないのに目のやり場に困る。じっと誰かを見つめる勇気もないし、隣のサラリーマンのツムツムを眺める気も起きない。かといって、きょろきょろと視線を泳がせているのも不自然でおかしい。というわけで、そんなときには半目にして眠っているふりをしながら頭の中で考え事をしている。自意識過剰だがこれも性格なので仕方がない。

電車に乗っている間は人生の休憩時間のようなものだ。所在なく自分の心に休業要請を出している。だからみんな無表情でぼんやりとした顔をしている。背景に溶け込むように。だけれど人というのは自分の物語を持っている。内容は分からない、些細なことしかないのかもしれない。様々な思いを乗せて人々を次の物語へと運んでいるわけだ。物語が一杯に詰まった乗り物。乗降していく物語を想像するのも楽しいし、理屈や難解な言い回しを考えずに、ただぼーっと人々を眺めるのも楽しい。現代社会の様々な断面に共通して存在する電車の中では、人間が生み出す様々な心があるわけだ。